野生の人文学

思考の壁をぶち破り創造的破壊へ。人文ベンチャー起業家、チャーリー北川のブログ

【開催レポート②】 Science and Nonduality:AI時代 × スピリチュアリティーが生み出す人間の未来

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こんばんは!

野生の人文学家、チャーリー北川です。

 

前回に引き続き、Science and Nonduality(SAND)についてレポートしてまいります。

 

私たちは、自分を、世界をどう観るのか?

これからの時代を牽引していくNondualityという古くて新しい視点。

 

今日は最近ブームのマインドフルネスとの関連も交えて、Nondualityの意味を深めていきたいと思います。

 

うつや統合失調症といった単語を頻繁に耳にするようになり、企業にメンタルヘルス管理が義務付けられるようになった昨今。

  • マインドフルネスはその処方箋となりうるのか?
  • Nondualityはマインドフルネスと一緒なの?違うの?

そんなポイントを探っていきたいと思います!!

 

SANDの概要については、前回の開催レポート①ご参照ください。

www.yaseinojinbun.com

 

最近流行りのマインドフルネスとは?

最近、「マインドフルネス」という瞑想法が注目を集めているのをご存知でしょうか?

もともとは仏教の中で伝統的に使われてきた瞑想法。
それをツールとして切り出し、宗教性を排除した上で、一般の人でも実践できる形にアレンジされたものがマインドフルネスです。

 

集中力のアップや、ストレス削減などの効果が科学的に実証され、ここ数年で急速に広まってきました。
特に、グーグルが自己認識や創造性、人間関係を高める手法として社内研修に積極的に取り入れるようになってから爆発的に知名度が上がり、今やフェイスブック、アップル、ゴールドマンサックス、インテルといった世界的な優良企業で取り入れられています。

サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法

サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法

  • 作者: チャディー・メン・タン,ダニエル・ゴールマン(序文),一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート,柴田裕之
  • 出版社/メーカー: 英治出版
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日本でも2016年のNHKスペシャル「キラーストレス ~ストレスから脳を守れ 最新科学で迫る対処法~」を皮切りに、テレビや雑誌等でよく紹介されるようになってきていますね。

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ブームのきっかけはストレス対策

1979年、マサチューセッツ大学医学大学院ジョン・カバット・ジン教授は慢性疾患を治療するために、マインドフルネスストレス軽減法のプログラムを開発しました。
彼は1966年から禅・ヨガを実践して以来、心と体の相互関係に注目して研究し、慢性的な痛みやストレス関係の病気を持った人々のために瞑想法をアレンジして現場に応用し、その効果を実証したのです。

 

SANDはNondualityに関するカンファレンスでしたが、マインドフルネスに関するカンファレンスの最も大規模なものとして、Wisdom 2.0というものがあります。

Wisdom 2.0とは?

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  • 2009年から開催されている、テクノロジーマインドフルネスに関する世界最大規模のカンファレンス。
  • 登壇者には、Google、Facebook、LinkedIn、スターバックスといった企業のCEOや組織開発、人材開発の責任者から、科学者、医師、国会議員、ソーシャルイノベーター、僧侶、アーティストなど、幅広い著名人が参加。
  • 毎年、世界30カ国から3000人を超える参加者がサンフランシスコ、ニューヨーク、またアメリカのみならず、ヨーロッパ、シンガポールに結集。
  • ニューヨーク・タイムズ、ハフィントン・ポスト、フィナンシャル・タイムズ、フォーブス等、各著名紙に掲載される。

偶然かもしれませんが、SANDも第1回の開催は2009年
リーマンショック2008年であったことを鑑みると、面白い一致ですよね。

 

SANDはScience&Nondualityですが、Wisdom 2.0が掲げるのはTechnology & Humanity。
科学技術が円熟期を迎えた今、次のパラダイムを、どのコミュニティも模索しているのを感じます。

 

SANDで意外と多かったテーマ:トラウマからの脱却

さて、マインドフルネスの簡単な解説を終えたところで、SANDの話題に戻します。
5日間のSANDのプログラムを見ていて意外だったのが、トラウマの解消法に関するテーマが多かったこと。

 

【プログラム例(邦訳は北川による)】

・Break the Cycle of Inherited Family Trauma
(家族トラウマの継承サイクルを壊すには)
・Collective Trauma:the Hidden Obstacle to Our Evolution
(集団トラウマ:私たちの進化の隠れた障害)
・Healing Trauma as a Spiritual Path:Individual and Collective Dimensions
(精神的な道としてトラウマを癒す:個人的な面、そして集団的な面)
・Fully Human:Nondual Psychotherapy as a Path to Wholeness
(完全なる人間:全体性へ至る路としての非二元的精神療法)
・Friends With Your Mind, How To Stop Torturing Yourself With Your Thoughts
(あなたの心の友:あなたの思考があなた自身を苦しめることを止める方法)

 

この意外性は、日本とアメリカの文化背景の違いの影響も大きいでしょう。

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日本で精神療法や心理療法にかかるというと、“病んだ人”、“心の弱い人”とネガティブなイメージがありますが、アメリカでは非常にポピュラーで、誰もが気軽に受けるものです。
健康保険も適用されますしね。
経営者など、責任の大きいポジションにある方なんかは、自己管理の意味でカウンセリングやセラピーを活用される方も多いと聞きます。

 

そもそも、精神医学や心理学自体、欧米発祥です。
トラウマという単語も外来語ですしね。

 

良い悪いという話ではなく、日本と違ってオープンに、むしろ誰もが向き合うべきテーマとして、積極的に議論されているのを感じました。

 

ちなみに、還元主義から全体性(ホーリズム)へ、二元性から非二元性へという流れはこの分野にも起こっています。

古典的な精神分析、認知行動療法といった手法から発展して、

  • トランスパーソナル心理学
  • ゲシュタルト・セラピー

といった、新しい手法が開発されています。

 

Freedom from Suffering(苦しみからの解放)

さて、Nondualityもマインドフルネスも、発祥はインド哲学・仏教です。
その文脈でトラウマを言い換えれば、カルマ(業)とでも言えばいいでしょうか。

 

要するに、現世の苦しみ・ストレスから自由になりたい!というニーズが人々を解脱の道、悟りの道、Nondualityの追求、マインドフルネスブームに駆り立てる訳です。
紀元前だろうが2000年前だろうが、現代だろうが変わらない、人類普遍のテーマですね。

 

何かを変化させたい、変えたいという時には2つの鍵が必要になります。
何だか分かりますか?

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それは、

  • 正確な問題の診断
  • 問題に対する処方箋・手段

の2つです。

 

Nondualtiyとマインドフルネスの罠

さて、今回の本題であるNondualityとマインドフルネスの関係についてです。

 

ちと本題からズレますが、マインドフルネスの流行を受けて、日本でも禅を見直す動きが出てきていますね。
スティーブ・ジョブズなんかは日本の禅を通して瞑想を取り入れていたそうな。

 

そこでも出てくる質問なのですが、Nondualityとマインドフルネス、禅とマインドフルネスの違いとは何なのでしょうか?


それは、先ほど出した2つの鍵の違いです。


つまり、本筋のインド哲学・仏教・禅で説いているのは

  • 苦しみを生み出している問題:人間の分別知=二元的なものの観方
  • 二元的なものの観方を克服する手段:瞑想

そして、二元的なものの観方を克服した結果として至る境地・ゴールがNonduality=非二元性な訳です。


マインドフルネスという瞑想メソッドによって不安な気持ちが解消されたり、良い気分になれたり、身体が健康になったりするというのは、とても良いことだと思います。
効果が科学的に証明されることも、多くの人が興味を持ち、実践してみようというきっかけになるので、悪いことではないでしょう。

 

ただ、効果があるからやろうというのは「利益」を目的とする行為です。
痩せたいから、リフレッシュしたいからランニングしよう、というのと同列ですね。

 

目的がズレて、手段だけが形骸化して残った場合、大抵ロクなことになりません笑

 

紀元前、「俺こんな苦行にも耐えれたぜ!」合戦を繰り広げていた修行僧たちを見て、釈迦が「むしろ苦行が悟りの妨げになっとるやん!目的ズレとる!!」と苦行ブームにストップをかけた(いわゆる『中道』というやつです)のも、同様の事象なのではないでしょうか。

 

もちろん、マインドフルネスも元を辿れば、しっかり目的をもっていたはず。
ですが、瞑想というメソッドだけが大衆化され、ムーブメント化されてしまった今のマインドフルネスには、批判の声も上がってきています。

 

チャディ・メン・タン:私の飛行機から羽を切り取らないで

そういったマインドフルネスへの警鐘を鳴らすものとして、私の印象に強く残っているのが、2018年2月にサンフランシスコで開催されたWisdom 2.0に登壇したチャディ・メン・タンのスピーチです。

 

チャディ・メン・タンはグーグルにマインドフルネスを広めた人物として、マインドフルネス界では知らぬ人はいない超有名人。

 

彼が3日に渡るカンファレンスのトリとして最終日に行ったスピーチのタイトルが、
“Don’t Cut the Wings Off My Airplane: Preserving Depth of Dharma in the Mindfulness Movement“
(「私の飛行機から羽を切り取らないで:マインドフルネス・ムーブメントの中でダルマ(法)の奥深さを守るために」)
です。

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(チャディ・メン・タンのスピーチ動画はこちら)

http://www.wisdom2summit.com/Videos/myriad_single_element/3282

 

昔むかし、とある1台の飛行機がある街にタイムスリップしたとしましょう。
街の人々は、突然現れた奇妙な鉄の塊を見て、どうするでしょうか?

 

最初、街の人々はこれをどう扱ったらよいのかに困ったに違いありません。
次第に、誰かが、これが運転できるものであることに気付くでしょう。
そして、こう言うのです。
「皆!これはバスとして使えるぞ!!」

 

その街の人々は、非常に賢い人たちの集まりでした。
なんと、その鉄のサイドから伸びている良く分からない羽のような部分を切断してしまえば、狭いところにも入り込める、便利なバスとして使えることに気付いたのです!!

 

…街の人々の生活は、確実に改善されたでしょう。
今までバスが無かったところから、バスのあるライフスタイルに変化したのです。

 

しかし、未来の世代にとっては?
街の人々は、飛行機から「空を飛ぶ」という可能性を奪ってしまったのです…

 


彼の話を要約すると、こんな感じです。

ヨガを単なるストレッチとして見なしてしまったとき。
マインドフルネスをただのストレス軽減法として見なしてしまったとき。
我々は何か大事な将来の可能性を失うかもしれません。

 

 

 

さて、今回も長くなりましたが、マインドフルネスとの関連付けをメインにNondualityを深めてみました!
次回はSAND開催レポートの最終回として、最先端科学とNondualityについて書きたいと思います!