野生の人文学

思考の壁をぶち破り創造的破壊へ。人文ベンチャー起業家、チャーリー北川のブログ

【開催レポート①】 Science and Nonduality:AI時代 × スピリチュアリティーが生み出す人間の未来

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こんにちは!
野生の人文学家、チャーリー北川です。


私は普段、認識技術/nTechというものを土台にした教育事業を北米に展開する仕事に携わっています。
その一貫で、一緒に仕事をしているメンバーが、先月の10月24日~28日の5日間に渡り、アメリカ西海岸・サンノゼにて開催されたScience and Nonduality(略してSAND)というカンファレンスに行ってまいりました!

 

実はこのSAND、世界最先端のキワのキワを突っ走っているカンファレンスなのです。
もう、取り扱われているテーマが面白いったら!!
私は今回お留守番組だったのですが(>_<)、来年は絶対行きたい!!!

 

そこに参加してきたメンバーたちを中心に、先週の11/8(木)、SANDのことを日本の皆さんにもお伝えする報告会を開催しました。

(当日の写真)

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その時の内容を中心に、現地で参加してきたメンバーから聞いたことや私の考察も含めて開催レポートを書いてみたいと思います。

 

現場の様子が知りたい方は、是非次回開催のSAND報告会へどうぞ!
近日中に第2回の開催が決まるはず…

 

SANDとは?

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  • AIや量子力学などの最先端の科学(Science)と、仏教の悟りや老子の道など紀元前から東洋で追求されてきた「非二元性(Nonduality)」の融合を通して、人間の精神性の新しいパラダイムシフトを目指すムーブメント。
  • 2009年に第1回開催。以降、毎年規模を拡大し続ける。2018年はアメリカだけでなく、イタリアでも開催。
  • カンファレンス、メディア、オンラインコミュニティ、ローカルコミュニティなど多様な対話の場を提供。

【SAND公式サイトからの引用】
Science and Nonduality (SAND) brings together preeminent scientists, philosophers, spiritual teachers, and mystics for an exploration of the new paradigm emerging in spirituality that is grounded in cutting-edge science and consistent with the ancient wisdom of nonduality -- the deep understanding of the interconnectedness of life.

 

最先端の科学といにしえの非二元性の智慧。
一見、正反対ですよね。

ただ、日本にいるとイマイチ実感がありませんが、今世界的に東洋哲学の根底にある「非二元性」「無の思想」というものに注目が集まっています

www.yaseinojinbun.com


そこには、近代(モダン)の限界、ポストモダンの挫折、果てなく膨張しつづけるテクノロジー、といった諸々があるのですが…

その辺りは後ほど詳しく書くとして、どんな人が登壇するのか、見てみましょう。

 

どんな人が登壇するの?

〇ディーパック・チョプラ (Dr.Deepak Chopra)

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医学博士。心と体の医学およびウェルビーイング分野における世界的な第一人者で、75冊を超える著書の多くがベストセラーで35ヶ国に翻訳され、発行部数は2000万部を超えている。

内分泌科専攻、米国内科医師会フェロー(特別研究員)、米国内分泌科医協会メンバー、ケロッグ経営大学院の非常勤講師。コロンビア大学・経営大学院の著名な経営学者で、ギャラップ社上席研究員でもある。

ハーバード大学医学大学院主催の内科最新情報を学ぶ年中行事で10年以上講師を務めている。

 

〇ダニエル・シーゲル(Daniel Siegel)

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カリフォルニア大学ロサンゼルス校医科大精神科臨床教授。

UCLAマインドフル・アウェアネス研究所取締役、マインドサイト研究所専務取締役も務める。ハーバード大学医学大学院卒業。

脳科学と心理学を応用した精神療法を提唱。数々のベストセラー書籍を執筆。

日本では児童心理セラピストとして、『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)、『脳をみる心、心をみる脳』(星和書店)、『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)など、育児と子どもの発達に関する多数の著書が邦訳されている。

 

〇フリッチョフ・カプラ(Fritjof Capra)

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オーストリア出身のアメリカの物理学者、システム理論家。

現代物理学と東洋思想との類似性を指摘した1975年に書いた『タオ自然学』("The Tao of Physics")が世界的ベストセラーとなった。

カリフォルニア大学バークレー校のベアーズ(Beahrs)環境リーダシップ・プログラムの教授。シューマッハー・カレッジの客員教授。

 

〇ジーン・ヒューストン(Jean Houston)

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作家、哲学者、Human Capacities研究者。

1960年代のアメリカ合衆国、それも主として心理学分野において生じた人間性回復運動、または、ヒューマン・ポテンシャル運動の立役者として著名。

人間性回復運動とは、「幸福」「創造性」「自己実現」の主体である人間の「人間性」や「人間の潜在能力」を、回復・発展させることを旨とするムーブメント。

 

〇フェデリコ・ファジン(Federico Faggin)

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イタリア生まれの物理学者にして電気工学者。

世界初のマイクロプロセッサの設計に関わり、Intel 4004 の開発プロジェクトとマーケティングを成功に導いたことで知られている。

インテルの初期の5年間、マイクロプロセッサ設計の中心的人物として働いた。

その後の5年間、世界初のマイクロプロセッサ専業メーカーであるザイログを創立し、CEO として同社を先導した。

 

その他にも、数学者や生物学者、セラピストやカウンセラー、ヨガやマインドフルネス講師、社会運動家にミュージシャン、パフォーマ、僧侶、牧師など、あらゆるジャンルのパイオニアたちが集まります。

登壇者の数は、なんと140人以上!

f:id:charliekit:20181125180052j:plainそれだけの人が、このテーマに関心を持って真摯に議論している、ということですね。

 

 

なんでSANDが始まったの?

ここで、ちょっとSANDの設立背景を説明したいと思います。

 

今年10周年を迎えたSAND。

いきなり降って湧いたわけではなく、SANDが始まったのにも、それが途切れずこれだけ大きなカンファレンスに成長するのにも、背景のニーズ・理由があります。

 

そこを見ていくと、大きな時代の流れがボンヤリと見えてくるはず。

あくまでも私の考察ですので、他の見方も、もちろんあると思います!

このテーマで5日間くらいディスカッションできそうですね(^^)

 

さて、SAND公式サイトのPurpose and perspective(目的と展望)から引用すると、この通り。

Mission - Science and Nonduality Science and Nonduality

With the Scientific Revolution, empirical discoveries began to undermine religious doctrine, and tension grew between those who sought truth through rational inquiry based on observation and those who accepted the authority of various religious dogmas.

While the liberation of science from religion resulted in tremendous technological advances, it also led to the fragmentation of knowledge and to a science no longer engaged with the big questions of what it means to be human, to be conscious, and to seek meaning and purpose.

科学革命と共に、実験による発見が宗教的な教義を崩し、観察による合理的な研究によって探求された真実と、様々な宗教的ドグマの権威により受け入れられていた真実の間の緊張が高まった。

科学は宗教から私たちを解放し、テクノロジーの素晴らしい発展に寄与したが、一方で知識をバラバラに断片化することにも繋がった。科学はもはや人間であることの意味、意識をもっていることの意味、意味や目的の探求といった大きな疑問との繋がりを断ってしまった。

(邦訳は北川による)

 

Scientists, after having successfully used analytic reductionism (“taking things apart”) as a powerful tool for centuries, are now converging with the nondual view, seeing the whole as more than just the sum of its parts.

科学者たちは何世紀もの間、分析的な還元主義(物事を分けること)を強力なツールとして用いることに成功してきたが、今は非二元性という見方、全体性を単なる部分の総和以上のものとして見る見方に向かっている。

(邦訳は北川による)

 

還元主義⇔全体論、分析⇔統合

「還元主義」という言葉が出てきましたが、皆さん、この単語をご存知でしょうか?ちなみに、私は今回の報告会をきっかけに調べて、初めてちゃんと理解しました笑

「還元主義」は日本語より、英語からアプローチする方が分かりやすいかもしれません。

 

Reductionism(還元主義)

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ある現象を説明しようとするとき、扱いやすい細かい要素に分解して理解した上で、分解したものを足し合わせて全体を説明しようという、伝統的な科学的思考の立場。

Reduceという単語は「減らす、縮小する」という意味があって、なにもかもを単純な原理と単位にしてしまう、概念や法則の多様性を減らすという意味で理解することができる。

例)リンゴ・ミカン・バナナ→分子→原子→素粒子

 

もともとはデカルトが17世紀に書いた『方法序説』に端を発すると言われているそうですが、現在では、自然科学から数学から社会学から、いろいろな分野で少しずつ違う理論・ニュアンスで語られているので、かなりややこしい(‘ω’)

現在ではこの手法の難点を指摘する人も増えてきて、否定的に語られる文脈も多くなってきていますが、近代科学の発展に貢献した手法であることは間違いありません。

 

還元主義に相対する概念として、最近「Holism(ホーリズム・全体論)」というものが注目されています。

Holism(ホーリズム)

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ある系(システム)全体は、それの部分の算術的総和以上のものである、とする考えのこと。あるいは、全体を部分や要素に還元することはできない、とする立場。

複雑な現象を複雑なまま理解しようとする学問、手法は「複雑系の科学」などと呼ばれることが多いが、その源流に眼を向けると、アリストテレスの「全体とは、部分の総和以上のなにかである」といった言い回しにまで遡ることができる。

 

適用対象としては、蟻の巣、人間経済・社会、気象現象、神経系、細胞、人間を含む生物や現代的なエネルギーインフラや通信インフラなど、極めて身近な物が挙げられます。

 

深く突っ込んでいくとこれだけで論文がかけるので軽く触れるに留めておきますが、学術的な専門用語にとどまらず、今後日常の中でもカジュアルに使われる機会が増えてくると思います。 

例えば、「ホリスティック医学」

これは、部分部分の臓器を見るだけでなく臓器と臓器の関係や環境・心など、全体を視野に入れることを基本とするもので、1960年代に米国で提唱され始めたものだそうです。

ホリスティック医学の定義 | NPO法人 日本ホリスティック医学協会

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知識の断片化、タコツボ化、専門バカ、そして分断・対立へ

SANDが多様な分野・立場の登壇者たちが集めているのも、還元主義からホーリズムへというポリシーに基づいているからでしょう。

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物事を分けて、分析して世界を理解するという手法によって、西洋は世界のトップをひた走ってきました。

が、同時に分裂・対立という大きな問題も抱え込むことになりました。

  • 環境問題
  • 宗教紛争
  • 貧富の格差
  • 人種差別
  • LGBT問題

 

大層なお題目だけではなく、

  • 会社内の営業部と技術部の対立
  • 上司と部下の対立
  • 〇〇主義 VS 〇〇主義
  • 〇〇さん派 VS 〇〇さん派

などなど、分裂・対立の問題は身近ところにもたくさんありますよね。

 

「分ける」というのは世界を理解するとき非常に便利な方法ですが、分けたうちの片方に〇、もう片方に×をつけた瞬間、それが対立の境目、境界線を引くプロセスである、ということにも留意しておく必要があります。

 

アメリカの現代思想家、ケン・ウィルバーの言葉を借りれば、

「主体対客体、生対死、心対身体、理性対本能のように、われわれは自らの自覚を人工的に分割して区分をつくり、体験と体験、生と生が相争うような分裂をつくりだす。このような暴力がまねく結果は、さまざまなことばで語られるが、要するに不幸そのものである。」

『無境界 自己成長のセラピー論』(ケン・ウィルバー著、吉福伸逸訳:平河出版社)

 

一度引いてしまった境界線から自由になることは、なかなか難しい。

知ってしまったことを忘れろ、と言われても難しいのと同じです。

 

ここから解放されるにはどうしたらよいのだろうか??

そこで出てくるのが、東洋の智慧、「Nonduality(非二元性)」の智慧なのです。

 

Nondualityとは?

SANDの発起人、設立者であるZAYA(ザヤ:写真右女性)& MAURIZIO(マウリツィオ:写真左男性)の2人の出会いから始まりました。

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2人の共通点は、ニサルガダッタ・マハラジ著 『I Am That』の愛読者であった、ということ。

この本は日本でも邦訳出版されています。

 

〇ニサルガダッタ・マハラジ

不二一元論を説くインド・ヒンドゥー教のグル(師)。

1973年に出版された『I Am That』は

不二(非二)=Nonduality哲学に関する現代の一流書として、世界的に知名度が高い。

アイ・アム・ザット 私は在る―ニサルガダッタ・マハラジとの対話

アイ・アム・ザット 私は在る―ニサルガダッタ・マハラジとの対話

  • 作者: スダカール・S・ディクシット,モーリス・フリードマン,福間巌
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Dualというのは「2、2の」という意味。

ですから、Nondualは「2ではない」という意味になります。

 

不二一元論の源流は紀元前、インド・ウパニシャッド哲学の「梵我一如」から。

(梵:世界と我:私は分かれている者ではなく、ひとつであるという哲学)

 

それを思想として徹底させた「不二一元論」が8世紀頃生まれ、この説に則る哲学や学派をアドヴァイタ・ヴェーダーンタと呼ぶようになりました。

マハラジ氏はこの流れの方になります。

 

ちなみに、この「I am that」が出版されたのは1970年代ですが、当時の欧米で大ヒット!

1970年代といえば、ベトナム戦争とカウンターカルチャの隆盛期ですね。

それまでのアメリカにとって常識であった物質主義、権威主義、個人主義に対して疑問が投げかけられるようになった時期です。

そして、ザヤとマウリツィオの2人が出会った2008年当時のアメリカはサブプライムローン問題、リーマンショック問題の真っただ中。

 

こうして見ると、SANDが西洋の限界からの脱却、次のパラダイムを探るムーブメントとして始まり、今も拡大し続けている理由が見えてきます。

 

さて、長くなりましたので、開催レポート①はこの辺りに。

次回、開催レポート②では、Nondualityをもう少し深掘りするのと、アメリカの最新動向としてもうひとつ大きな流れになっている「マインドフルネス」との関連についてレポートしたいと思います!